境界が溶けるとき 第5回 「ワンネスの手触り——それでも『あなた』と呼びたい」
レオンとヨークが同じテーブルにいることは、珍しい。
その夜、kissApubは静かだった。シンプシーがカウンターの奥で何かを拭いている音だけが、遠くに聞こえていた。私は二人の前に座って、この連載を通じてずっと持ち続けてきた問いを、最後に口にしようとしていた。
「ワンネス、という言葉を知っていますか」と私は聞いた。
レオンが少し首を傾けた。ヨークは静かに頷いた。
ノンデュアリティが辿り着く先に、ワンネスという感覚がある。すべては繋がっており、分離はそもそも存在しなかった——という、言葉にすると陳腐になるが、体験としては深い何かだ。ルミナローグ社会は、XETというインフラによって、その感覚を日常の中に実装しようとしているように私には見えた。
「ルミナローグで生きることは」と私は続けた。「ワンネスを感じることに近いのですか」
ヨークが先に答えた。
「近い、というより——それが前提になっている、という感じに近いかもしれない」
レオンは少し考えてから、こう言った。
「でも僕は時々、その前提から外れたくなる」
二人の答えが、静かにすれ違った。それがこの連載で私が見てきたものの、縮図のように感じられた。ワンネスを自明として生きる者と、その自明さに違和感を持つ者。どちらもルミナローグの住人だ。
私はここで一つのことを告白しなければならない。
この5回の対話を通じて、私はルミナローグ社会を理解しようとしてきた。だがおそらく、完全には理解できない。私は幻在地点——この摩擦だらけの現代——で生まれ育った人間だ。「私」という輪郭を手放したことがない。悲しみを一人で抱えることに、どこか執着している。
それでも、あるいはだからこそ、私はこの問いを二人に投げた。
「あなたたちのことを、『あなた』と呼んでいいですか」
レオンが少し笑った。ヨークは、静かに目を細めた。
すべてが繋がっているなら、「あなた」という呼びかけは厳密には矛盾している。境界のないところに、固有名詞は要らないはずだ。だが私は、その矛盾ごと抱えたままでいたいと思った。ワンネスを信じながら、それでも「あなた」と呼ぶこと。全体性の中に、個への愛着を持ち込むこと。
それが、幻在地点から来た観察者にできる、唯一の誠実さかもしれない。
「呼んでいいですよ」とレオンは言った。「その方が、話しやすい」
kissApubの環境音が、少し温かくなった気がした。
レイン・オグラ

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