執筆者 レイン オグラ2026年6月10日
ネタが枯れたジャーナリストが、メタバースを買った理由
雑感 記事
仮説を追うのが、私の仕事だった。
証明される前の科学——まだ誰も正しいとも間違いとも言えない領域に踏み込んで、その可能性を言葉にする。意識科学、量子生物学、社会物理学。主流からは少しずれた場所で、それでも真剣に世界の輪郭を書き換えようとしている研究者たちを追いかけて、記事にしてきた。
だがある時期から、ネタが枯れてきた。
正確には、ネタではなく、自分のアンテナが枯れたのだと思う。新しい仮説に触れても、以前ほど興奮しなくなっていた。書くことと、感じることの間に、少しずつ隙間が空いていった。そのうち、しばらく休もうと思って、仕事をいったん止めた。
そんな時期に、ライター仲間の一人がやたらとメタバースの話をしてきた。
「レイン、VRって知ってる?マジで別世界だから」
まったく興味がなかった。だがその人間が、これほど熱を持って何かを語るのを初めて見た気がして、Meta Questを買ってみた。仕事ではなく、純粋に何かを試してみたかったのだと思う。少なくとも、ネタを探していたわけではなかった。
ゴーグルを被った瞬間の感覚は、正直に言えば少し滑稽だった。現実の自分の部屋の中で、どこか別の場所に立っている。身体はここにあるのに、目はそこにある。その乖離は、慣れるまで少し気持ち悪かった。
だが慣れると、何かが変わった。
ゲームとして使う気にはなれなかった。それよりも、この空間の「性質」が気になった。物理的な距離が消えて、アバターという匿名性が加わって、それでもそこに「誰か」がいる。その誰かは、得体が知れない。人間かどうかも、正直わからない。
それでも、そこにいる。
その事実だけで、私のアンテナが久しぶりに動いた。これは、科学ではないかもしれない。だが何かだ、と思った。
レイン・オグラ

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