回想録3ー同じ人としての立場
(綾城レオンの記録を、レイン・オグラが代筆しています)
私は、しばらくその人物を観測し続けました。
久遠ソーマ。
彼は特別なことをしているわけではありませんでした。ただ机の前に座り、何かを考え、時折立ち上がり、また座り直していました。電子機器に囲まれ、静かな自然の中で作業を続けていました。
しかし、その思考の動きには奇妙な集中がありました。
こちらの世界では、意識は常に周囲と共鳴しています。人の思考は完全に孤立することはなく、社会や環境、GAIAとの共振の中で自然に広がっていきます。
ところが彼の意識は、強く閉じていました。
それは孤独と言うべき状態かもしれません。しかし同時に、それは意志でもありました。
彼は、自分一人で考えていました。
その姿を見て、私は少し戸惑いました。
ルミナローグでは、人は一人で世界を背負うことはありません。社会は共鳴によって成り立ち、誰かがすべてを抱え込む必要はないからです。
けれど、彼は違いました。
彼の世界では、人は一人で問いを抱え、一人で答えを探し、一人で決断しているように見えました。
それは非効率にも見えました。危険にも見えました。
しかし同時に、私はそこに強い力を感じました。
彼は、自分の世界を疑っていました。
与えられた仕組みを当然のものとして受け入れるのではなく、その背後にある構造を見ようとしていました。何かがおかしいと感じ、その理由を探していました。
その姿は、私たちとまったく同じでした。
文明は違います。
技術も違います。
社会の形も違います。
しかし「問いを持つ」という行為だけは、完全に一致していました。
その瞬間、私は理解しました。
私たちは、別の種ではありません。
異なる存在でもありません。
ただ、違う場所に生まれただけの人間です。
彼らの世界は、まだ多くの苦しみや不安を抱えているように見えます。技術は未熟で、社会も不安定です。しかし、その中で人々は自分の頭で考え、世界を理解しようとしています。
その姿には、どこか懐かしさがありました。
おそらく、ルミナローグもかつては同じだったのでしょう。
私は観測を続けながら、ひとつだけ確信しました。
この干渉は、侵入ではありません。
優越でもありません。
ただ、人が人を見つけただけなのです。
ブラックホールの向こう側に、もう一つの文明があります。
そしてそこには、私たちと同じように問いを持つ人間がいます。
それだけで、この出会いには十分な意味があります。
私はその日、初めてこの干渉を恐れなくなりました。
(了)

コメントを残す