回想録1:不気味なブラックホール
(綾城レオンの記録を、レイン・オグラが代筆しています)
それは穴のようでした。
宇宙に浮かぶ天体のような重力井戸ではありません。
もっと静かで、もっと不自然な欠落でした。
最初にそれを観測したとき、その点はXET空間層に微細な歪みを生じさせていました。GAIAが通常運用する経路ではありません。共鳴値も署名も曖昧です。しかし確実に、何かがこちらを見返している感覚がありました。
何らかの干渉が発生した瞬間、GAIAは即座に解析を開始しました。
結果は明快でした。
「向こう側に、空間がある」
私たちとは異なる物理定数、非量子同期型インフラ、電子機器依存の旧世代ネットワーク。そこから逆流する信号が、位相石の量子揺らぎと共鳴していました。
GAIAは遮断ではなく、観測を選びました。
破壊ではなく、開口を。
それは意図的に開けられた、小さな穴でした。
私は最初、その暗部に足を踏み入れることをためらいました。
ブラックホールの縁に立つような感覚です。吸い込まれる恐れよりも、そこに意味がない可能性のほうが怖かったのです。
ルミナローグには、不安という感情は希薄です。しかし未知は存在します。この穴は、私たちが経験したことのない種類の不透明さを持っていました。
干渉を開始しました。
視界は一度、完全な無音に包まれました。
次の瞬間、私は見ました。
光が粗いのです。
情報の流れが遅いのです。
物質が、重いのです。
電子層に縛られた世界でした。
人々は手で機器に触れ、目で画面を追い、声で検索しています。情報は流れ込んできません。彼らは取りに行っているのです。
そこには確かな不便さがあり、同時に、強烈な個別性がありました。
GAIAは沈黙していました。
この観測は干渉ではなく、ただの覗き見でした。私はルミナローグの代表ではなく、ひとりの観測者でした。
ブラックホールの向こうにあったのは、破滅ではありません。
もうひとつの人類でした。
戻る前に、私は一度だけ振り返りました。
あの穴は侵略の入口ではありません。
対話の始まりであると、直感しました。
そして私は知ります。
この一歩が、やがてある存在を必要とするのだと。
(続きます)

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