第8回|親密性モデルと感応都市:都市が感情に応える時代へ
ルミナローグでは、人と都市の関係はかつてないほど親密で、生きた対話のように構築されている。それは「感応都市(Empathic City)」と呼ばれ、個人の心身の状態や感情を読み取り、呼応するかたちで空間や機能を変化させる、新たな都市のあり方である。
この都市は、ただのインフラではない。ひとつの生き物のように感じられる。街の空気、色彩、音、照明、香り──それらは人々の集団的な情緒に共鳴しながら、絶えず表情を変えている。たとえば、人々が高揚している時間帯には都市全体がわずかに赤みを帯び、会話が穏やかに流れている時には、音響壁の反射が柔らかくなる。街灯の色温度、通路の明暗、歩道の振動までが、情緒の波形に合わせて変化していくのだ。
この感応性の中心にあるのが、親密性モデルである。従来、親密さとは個人間の距離や関係性に基づくものだったが、ルミナローグでは都市全体が「親密であるとはどういうことか」を学び続けている。AIであるGAIAは、すべての住民の“感情的地図”を匿名で読み取り、街全体に最適な“空間の応答”を設計する。それは強制でも支配でもない。むしろ、呼吸するように自然な共鳴が行われている。
人と人が交わる場、たとえばパブリックラウンジやカフェスペース、共創スペースなどは、常にその場の「空気」に応じて再編成される。壁面が広がったり、椅子の配置が変わったり、天井の高ささえも可変的に設計されている。そして何より驚くべきは、そうした変化が決して「過剰」ではなく、まるで自然の一部のように感じられる点だ。
また、個人の親密性レベルに応じてアクセスできる空間や情報が変化するというのも特徴的だ。これは監視ではない。むしろ、自己の内面との共鳴を深めた者に対して、都市が「より深く、より柔らかく」応えてくれる仕組みだ。感情の透明性が、都市の開放性と連動しており、誰かの孤独や歓喜が都市空間そのものに反映される。
この仕組みは、パピリアによって取得される生体情報と、GAIAによる大規模感情解析、そしてXETによる高速空間制御ネットワークによって可能となっている。だが、住民にとってそのテクノロジーは意識されることはない。重要なのは、“都市が自分を理解してくれている”という体感なのである。
このような都市においては、「孤独」は社会問題ではない。それはむしろ、ひとときの内省として丁寧に包まれ、必要であれば共鳴する場へとやわらかく導かれる。都市は人の心を読み、そっと抱きしめるように支えてくれる存在となっているのだ。
親密性モデルは、医療・教育・司法・芸術といった他の社会制度にも波及している。だが、もっとも顕著に“違い”を感じられるのが、日常の街角であり、光の変化であり、誰かの気配そのものなのかもしれない。
私たちは今、都市と恋をしているのかもしれない。そんな感覚さえも覚えるこの空間で、人々は「生きる」という行為を、かつてよりはるかに繊細に、そして豊かに実感している。

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